神戸地方裁判所 昭和52年(行ク)17号 決定 1978年2月28日
神戸市生田区江戸町一〇四番地
原告(申立人)
関西産業株式会社
右代表者清算人
白木恒雄
右訴訟代理人弁護士
前田貢
伊丹市千僧一丁目四七番地三
被告
伊丹税務署長
佐武公明
右指定代理人
高須要子
同
山中忠男
同
岩城章雅
同
片山敬祐
同
山口正
東京都千代田区霞ヶ関一丁目一番一号
被告
国
右代表者法務大臣
瀬戸山三男
右指定代理人
高須要子
同
山中忠男
同
岩城章雅
主文
原告(申立人)と被告伊丹税務署長との間における、
主位的に、
「被告が原告(申立人)に対し、昭和五一年二月二四日付でした次の各処分はこれを取消す。
1. 原告(申立人)の昭和四七年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度分法人税額の更正処分並びに無申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分
2. 原告(申立人)の昭和四八年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度分法人税額の更正処分
3. 原告(申立人)の昭和四九年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度分法人税額の更正処分及び重加算税の賦課決定処分
訴訟費用は被告の負担とする。」
予備的に、
「被告が原告(申立人)に対し、昭和五一年二月二四日付でした次の各処分は無効であることを確認する。
1. 原告(申立人)の昭和四七年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度分法人税額の更正処分並びに無申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分
2. 原告(申立人)の昭和四八年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度分法人税額の更正処分
3. 原告(申立人)の昭和四九年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度分法人税額の更正処分及び重加算税の賦課決定処分
訴訟費用は被告の負担とする。」
との判決を求める訴を、原告(申立人)と被告国との間における、
「伊丹税務署長が原告(申立人)に対し、昭和五一年二月二四日付でした次の各処分に基づく租税債務は存在しないことを確認する。
1. 原告(申立人)の昭和四七年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度分法人税額の更正処分並びに無申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分に基づく金九、三七三万六、八〇〇円の租税債務
2. 原告(申立人)の昭和四九年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度分法人税額の更正処分及び重加算税の賦課決定処分に基づく金八〇六万九、○○○円の祖税債務
訴訟費用は被告の負担とする。」
との判決を求める訴に変更することを許可する。
理由
一、原告(申立人、以下原告という。)は主文同旨の決定を求め、これに対し、被告伊丹税務署長は、特に意見はない旨を述べ、被告となるべき者である国は、本件訴の変更を許すべきでないとして、別紙のとおり意見を述べた。
二、よって、判断するに、本件記録によれば、原告は、昭和五一年一二月二三日に当裁判所に対し、伊丹税務署長を被告として、同被告が原告に対し昭和五一年二月二四日付でした次の各処分の取消を求める訴訟を提起し(昭和五一年(行ワ)第三九号)、
1. 原告の昭和四七年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度分法人税額の更正処分並びに無申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分
2. 原告の昭和四八年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度分法人税額の更正処分
3. 原告の昭和四九年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度分法人税額の更正処分及び重加算税の賦課決定処分
右取消訴訟事件は、昭和五二年二月二五日、同年四月二二日の両期日実施された口頭弁論において審理されていたところ、原告は、同年七月一日に実施された第三回口頭弁論期日において、行政事件訴訟法一九条に基づいて、同被告に対する右各処分の無効確認を求める訴訟を予備的に併合して提起し、現に右各訴訟事件は当裁判所において係属審理中であること、右各訴訟については既に六回に亘って口頭弁論が開かれ、原告において訴状、準備書面二通、被告伊丹税務署長において答弁書、準備書面二通がそれぞれ陳述され、証拠資料として甲第一ないし第一〇号証、乙第一号証の一、二、第二、三号証が取調べられていること、右の段階に至って原告より、同年一一月一八日、行政事件訴訟法二一条一項に基づいて主文掲記のような本件訴の変更の申立がなされたこと、被告伊丹税務署長は、原告の主位的請求たる取消訴訟については、前記各処分に対する原告の異議申立は、異議申立期間経過後になされたものであるから、適法な不服申立を経ない不適法な訴であるとして却下を求め、予備的請求たる無効確認訴訟については主位的請求たる取消訴訟が不適法なものである以上、行政事件訴訟法一九条による請求の追加的併合は許されるべきではないと争つていること、以上の事実が明らかである。
してみると、従前の訴と、変更を求める訴は、いずれも前記各処分(但し、新訴については昭和四八年度分の法人税額の更正処分を除く。)の瑕疵の存在を理由とするもので、その請求の基礎に変更はなく、前記事実によれば、本件においては、既に六回に亘る口頭弁論を重ねて審理されているのであるから、顕出された訴訟資料、証拠資料を変更後の訴に承継させる利益は原告において十分に存するものであり、かつ、従前の訴を維持できるか否かについて問題の余地なしとしない本件においては、新訴に勝訴の可能性がないことが明白でない以上、このような状況のもとにおける訴の変更は相当性を有するものというべきである。(なお、行政事件訴訟法二一条にもとづく訴の変更は、従前の訴が適法なものであることをその要件としていないことはいうまでもない。)
よつて、原告の行政事件訴訟法二一条一項に基づく本件申立は理由があるからこれを許可することとし、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 阪井昱郎 裁判官 大和陽一郎 裁判官 上原理子)
別紙
行政事件訴訟法二一条一項が、別訴によるべき民事訴訟法の原則に従うことを要求することなく、訴えの変更による旨の便法を認めたのは従前の訴訟手続によつて生じた法的効果を維持し、また、そこに顕現された訴訟資料の利用を可能ならしめもつて申立人の利益の保護と訴訟の経済をはからんとする配慮に出たのであるから、かかる便法を認めるに足る基盤の存在しないときは、訴えの変更は許されるべきではない。したがつて、従前の取消訴訟では、その継続中にその対象たる処分が、法令の規定・期間の満了等により訴えの利益が消滅した場合に右訴えの変更を認められるのは格別、そもそも当該取消訴訟が提起された時点において、出訴期間を徒過するなどの事由により不適法であり、しかも、それが申立人の費に帰すべき事由により招来せしめられたような場合には、申立人をして従前の訴訟手続によつて生じた法的効果を維持させるべきでなく、また、訴訟資料を利用させるべきではないのであつて、同人の利益を保護しなければならない理由はなく、訴えの変更を認めるべきではない。
ところで、本件訴えの変更許可の申立のあつた神戸地裁昭和五一年(行ウ)第三九号法人税更正処分等取消請求事件においては、右更正処分等に対する異議申立が異議申立期間経過後になされたものであり、その結果右取消訴訟は当初から申立人の責に帰すべき事由により不適法であつたのである。しかも、右訴訟の審理は、被告税務署長において請求の原因に対する認否をしたのみで、本案の審理は何らなされていないのであるから、新請求に継承すべき法的効果は皆無であり、また、申立人において従前の訴訟資料を利用する便宜も存在しない。したがつて、本件訴えは、これを認めるに足る基盤が存在しないのであつて、訴えの変更は許されるべきではない。
なお、付加するに、行訴法二一条一項による訴えの変更は、取消訴訟と交替した新請求として目的を達することができないような場合には、訴えの変更は許されるべきではないところ、申立人は従前の訴訟が取消訴訟であるにもかかわらず各課税処分に重大かつ明白な瑕疵があるため無効であることを理由として租税債務不存在確認の訴えに変更を求めるのであるから、右は新請求として目的を達することができないというべきであつて、本件訴えの変更は許されるべきではない。